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日本の近代詩には植物、動物といった生物を主な詩的対象物として描いた作品が少なくなく、萩原朔太郎はその代表格といえよう。特に、『月に吠える』と『青猫』を中心とする初期詩集には植物と動物、ひては微生物に至る生物系全般についての格別な関心が目立っている。それは彼の詩の核心のテーマである生命感を表すうえで、特有の病理感覚に根付いた‘異常趣向’というより、今まで人間の周辺的な存在に止まってきた生物界の範疇を積極的に拡大するなかで、人間のみがあらゆる生物の優位に立ち、君臨するという固定観念を根本から否定するものである。このような詩人の特別な生物学的認識が犬と猫といった人間に親しい動物だけでなく、詩の世界ではほとんど関心外だった軟体動物や、爬虫類、微生物、さらに地上と地下を行き来する植物の旺盛な生命力に至るまで、人間を含めた生物界全体についての積極的な関心を齎したものと見られる。こういう意味で朔太郎の詩に登場する多彩な生物表現は生物界を構成している各生命体間の有機的な関連性を把握するうえで、重要なテキストとなるはずである。日本の近·現代詩の課題がが文明と科学一辺倒の物質万能社会が齎した非情でドライな人間情緒を克服することにあるとすれば、唯一の解決策は人間と植物(草木、花)、動物、微生物といった生態系の構成要素全体を相互依存し、調和し合うものと受け止めなければならないといえよう。換言すれば、日本近代詩に現れた生物表現はその背後にある詩人の美意識や価値観並びに現代社会のメカニズムの究明を可能とする一方で、人類が処している生態環境の危機状況を照明する手助けとなる。これを打開するためには、既存の科学一辺倒の物質的でドライな観点から離れ、科学が蔑ろにしてきた文学特有の暖かい視線で問題点と解決策を模索する必要があるといえよう。
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